三中さんが biometry (mailing list)
になにやらいろいろと投稿しておられるな.
統計学で用いられる「確率分布」の分類に関する話題です.
Lawrence M. Leemis and Jacquelyn T. McQueston
Univariate Distribution Relationships.
The American Statistician, Vol.62, No.1, pp.45-53,
February 2008
DOI: 10.1198/000313008X270448
pdf: http://www.math.wm.edu/~leemis/2008amstat.pdf
統計学の世界では数多くの「確率分布」が利用されている.
正規分布や二項分布のようなビッグネームもあれば,聞い
たこともない人名が付された確率分布もある.本論文はこ
れらの確率分布を平面マップ(あるいは系統ネットワーク)
として描かれたチャートによって体系化する試みである.
本論文は現在ではpdfで自由にダウンロードできるが,同
論文の「紙」版には,付録としてこのチャートの折込プレ
ートが別に添付されていた.この図表はパラメトリック統
計学の基礎になる確率分布間の相互関係を鳥瞰するととも
に,“正規分布帝国”における従属関係を知る上でも便利
だ.
Leemis によるこの確率分布の平面マップは,四半世紀前の
1986年にすでに同誌に発表されていた:
L. Leemis 1986,
Relationships among common univariate distributions,
The American Statistician, 40: 143-146.
John D. Cook の記事:
John D. Cook's blog: The Endeavour,
Probability distribution relationships (20 February 2008)
http://www.johndcook.com/blog/2008/02/20/probability-distribution-relationships/
は, Leemis のこのチャートは統計学者にとっての「元素
周期律表」であると賞賛している.なお,Cook はこの論文
に基づく確率分布のクリッカブル・チャートを別サイトで
公開している:
John D. Cook, (12 October 2008)
Clickable diagram of distribution relationships
http://www.johndcook.com/distribution_chart.html
この図もまた教材としての利用価値は高い.
さらに調べてみると,同じような目的で確率分布の間の
「類縁関係」を考察した研究がほかにもあることがわかる.
たとえば下記の論文がある:
Yousry H. Abdelkader and Zainab A. Al-Marzouq 2004.
Probability Distribution Relationships.
International Journal of Basic and Applied Sciences
IJBAS-IJENS, Vol.10, No.1, pp.76-86.
pdf:
http://www.ijens.org/1001-91310-3434%20IJBAS-IJENS.pdf
パラメトリック統計学での離散型あるいは連続型の「確率
分布」は,確かに統計学者にとって不可欠のツールである.
それと同時に,これほど多くの確率分布が導出され,広く
利用されていることを考えるならば,これから統計学を学
習しようとする者のみならず,統計学を生業とする研究者
にとっても,確率分布群の適切な「分類体系化」は不可欠
だ.
Leemis をはじめとする確率分布の「平面マップ」による体
系化は,「分類学的精神(la raison classificatoire)」
(Patrick Tort, 1989)が統計学の世界にも受け入れられ
てきたことの証といえるだろう.
To classify is human.