ぎょーむ日誌 2008-11-21
2008 年 11 月 21 日 (金)
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0745 起床.
朝飯.
コーヒー.
0905 自宅発.
晴.
0920 研究室着.
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う.
松田君からテングザル論文原稿が送られてきてしまった.
ちょっと見てみる.
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まあ,
松田君はまた数日後にマレイシア調査にでかけるから,
これはあとまわしにして
……
またぢりぢり進捗のアリ論文原稿改訂にとりくんでみる.
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ふーむ,
例の Associate editor の趣旨不明ぎみな要請,
Kümmerli and colleagues
の
Formica exsecta
の論文 (公表年不明) を引用して discussion を改訂せよ,
の件だが
……
そのアリを調べた論文のひとつ,
Holzer, Kümmerli, Keller, Chapuisat
(2006) Sham nepotism as a result of intrinsic differences
in brood viability in ants. Proc. R. Soc. B 273: 2049-2052
という短い論文 (letter か?) はなかなかおもしろい.
題名をてきとーに意訳してみると
「アリの女王の個体差由来の繁殖成功のちがいを
ワーカーによる『えこひいきの差』と誤認している!」
といったところでしょうか.
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多女王の Formica exsecta
をつかっての実験なんだが
……
おおざっぱにいうと,
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queen A と B それぞれに worker をつくらせる
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worker だけの巣を A, B それぞれつくる
(worker はまぜない)
……
これを pair とよび,
たくさんの pair を準備する
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それぞれの巣に卵・幼虫 (queen A, B 由来両方,同数)
いれて worker に育てさせる
……
女王アリはその実験系にはいれない
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育った子供たちの遺伝子を調べて,
pair ごとに
えこひいき (queen A の worker は A の子供ばかり育てるか)
を調べた
といった実験.
たとえば A の worker の巣では,
A の子供と (とうぜんながら) 血縁度が高く,
B の子供とはゼロにちかい,
となっている (実測されている).
で,
結果としては次のようなかんぢで:
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(後述する女王差を考慮すると)
nepotism (血縁にもとづくえこひいき)
はなかった
……
つまり,
たとえば A の worker たちは A・B の子供を識別できず,
同じように育てた
(worker A と子供 B の血縁度はほぼゼロ)
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卵・幼虫が大人になるまでの確率はどの女王アリが産んだものかに
依存する
(どの worker が世話するかに関係なく)
……
「女王差」がある
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この実験でつかった標本では,
「ある女王とその worker の血縁度が高い」
と「ある女王の卵の生存確率は高い」
のあいだに正の相関があった
……
これが nepotism と誤解されていたのでは?
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worker が自分の育てている子供が「誰の子供か」
を認識できない,
という点はこの実験でまあ明確に示されているといってよいだろう.
pairwise のデータ解析でちょっとややこしいことをやっているが
このあたり,
混合モデルを使うともっとすっきり解析できる.
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女王アリの個体差 (産んだ卵の生残確率の大小),
といった (いわば) random effects があり,
それを無視したデータ解析では nepotism があると誤解しやすい
……
このハナシはちょっとわかりにくい.
「ある女王とその worker の血縁度が高い」
と「ある女王の卵の生存確率は高い」
のあいだの正の相関,
なるものがあるとすれば,
誤認しやすいかなぁ,
というハナシなのだろう.
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一番ナゾなのは,
「ある女王とその worker の血縁度が高い」
と「ある女王の卵の生存確率は高い」
のあいだの正の相関,
がどうして生じるかだな.
これについては論文内ではいいかげんにしか解析されていなくて,
考察もほとんどない.
そもそも女王アリが複数オスと交尾しているので,
worker 間の平均血縁度も 0.75 ではなく 0.68 ぐらいなのだが
(これの starndard error in mean が異様に小さいのもナゾ),
女王 と worker 間の平均血縁度はもっとばらついているのか?
ある女王アリ内でヘテロ接合が多いと
その卵の生残確率が下がる,
とか?
よくわからんな.
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ちなみに
Sham nepotism
(見かけの縁故主義)
という簡単きわまりない語で Google Scholar
を検索してみると
……
現時点では上記論文がトップにでるわけだが,
他にもこれを引用している
``Social Evolution: The Decline and Fall of Genetic Kin Recognition''
(社会進化: 遺伝的な血縁認識の衰退と凋落)
などといった,
タイトルからして
いかにもこちらのアリ拉致実験データ解析論文の
discussion に都合よろしいような論文なんかも
見つかったり
……
いやはや,
実際のところ,
こういう主張ばかりを探して喜んでいるのは
バランス感覚が欠如しているからなんだけど,
まあどうせ当方は行動生態・社会進化分野のヨソもの (便利な言葉だ)
なんだしー,
といった無責任なお気楽さがあったりして,
ですね
……
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昼飯.
昼飯後に矢澤さんの発表練習に一時間ばかり.
窓の外は雪.
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夜まで,
じつは上記 Holzer et al. 2006 なる短い論文の読解に苦闘していた
(上に書いてるあれこれはその読解の結果).
著者の主張は明確に書かれているので,
何も考えずに読んでもすぐわかるんだけど,
そのもとになっている実験系なんかを理解するのになかなか時間がかかってしまって,
ですね.
そして上で書いた「女王差が生じる理由」というナゾについて,
これまたいろいろ検討してみたんだけど
……
やはり著者もよくわかってないよーだ,
という結論に到達してしまった.
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1950 研究室発.
松田君とばったりであったので,
ちょっとテングザル議論.
2015 帰宅.
晩飯.
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[今日の運動]
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[今日の食卓]
- 朝 (0820):
米麦 0.8 合.
ニラ・卵の炒めもの.
- 昼 (1320):
研究室お茶部屋.
米麦 0.8 合.
コンブの酢のもの.
キムチ.
- 晩 (2100):
米麦 0.8 合.
コンブの酢のもの.
キムチ.
ヨーグルト.