[4. 齢構造近似]

Q. 齢構造近似とは?

A. 「林分の齢」という変数を導入することで,上記の平均場近似を補正しようとする計算方法.林分の齢分布と各林分齢における樹木のサイズ分布を同時に計算する.

Q. 「林分の齢」とは?

A. この近似計算では「林分が撹乱されてからの時間」.では「林分の撹乱」とは何かというと,この計算では「閾値サイズ」を設けて,そのサイズより大きな個体が「死亡」すると「林分が撹乱された」と見なす.林分が撹乱されると,林分の齢はゼロに設定され,「閾値サイズ」を超えている樹木は全て削除する.

Q. 「閾値サイズ」?

A. もともとの生態学的な意味合いとしては「20m四方ぐらいの林分を完全に1個体で占拠しうる最小サイズ」.ただしここでは,「もっともそれらしい結果を出力するように自由に値を選んでよい自由パラメータ」として扱ってしまった.単純化した十方山モデルにおける「閾値サイズ」はDBH24.5cm である.なぜ24.5cm でなければならないのか誰も説明できないので,誰もそれについては気にしていない.

Q. 齢構造近似は誰が考案したの?

A. 甲山隆司さんの1993年の論文で発表されたのが最初だと思う.次に1997年になってSteve Pacala がそれとは独立にほとんど同じ近似計算方法を開発し(...つまり甲山さんの成果をその時はまだ知らなかった...),彼の森林動態IBM "SORTIE" (コネチカット州の針広混交樹林のシミュレーター)の結果と比較することで,この近似計算の妥当性をチェックした.この文書で述べている齢構造近似も原理的にはほぼ同じ計算方法だと考えてよいだろう.

Q. 齢構造近似で得られた結果を要約すると?

A. 「閾値サイズ」を「正しく」選ぶと,IBMで得られた結果とほとんど同じものが得られた.ただし,サイズ分布をプロットすると,「閾値サイズ」に見てくれの悪い「折れ曲がり」を持つ少し歪んだ分布が得られた.

Q. なぜ齢構造近似は「うまくいく」のか?

A. 例の「...もし中径木がたくさん存在するするならば,それは大径木が存在しない確率が高く...」という「負の共分散構造」を「林分の齢」という変数を使ってうまく表現してるためである.「林分の撹乱」によって,林分の齢をゼロと設定すると同時に林分内の大径木を全て(仮想的に)削除するので,齢が「若い」林分には大径木が存在せず,小・中径木が活発に成長し,被陰による死亡が無くなる.さらにこの「齢」が大きくなると成長した中径木は大径木(林冠木)となり,小・中径木を被陰によって殺していく.つまり新たに「齢」という次元を利用して,「中径木がたくさんいる林分」と「大径木がいる林分」を分離している.これがホントらしい計算結果を得る原因である.

Q. 齢構造近似の利点は?

A. 「定常状態のBA」のような「粗視的な」統計指標を出力させると,恐ろしいほどに頑健(robust) であること.ここでいう「頑健」とはa0, a1, ..., d2, f0 といったパラメータをいろいろ変化させてみても,IBM から得られる定常BA 値に近い値が得られた,というほどの意味あいである.このときはパラメータだけを変化させ,「閾値サイズ」は固定したままであった.さらに,後で述べる「共分散近似」と比較した場合,一見したところ説明が直感的でわかりやすいような気がする.したがって,この計算方法が実用的な利用にたいへん適していると考えられる.

Q. 齢構造近似の欠点は?

A. 実際には「林分の齢」というのはなかなか観測困難であること.そして仮定の数が多いこと.さらに,林分を垂直に二つのコンパートメントに分けたところで,それぞれの区画では相変わらず平均場近似をしている.また,Steve Pacala は齢構造近似ではうまく説明できない事例もすでに見つけ出している(...おそるべし...).



[前] [目次] [次]