[2. IBM(Individual Based Model)について]
Q. IBM(Individual Based Model)とは何か?
A. 一個の樹木の存在を「密度」や「密度分布関数」や「サイズ分布関数」に換算することなく,モデルの中で「そのまま」とり扱う手法をさす.すなわち,「新規加入」した一個体(この場合は一本のブナ)のサイズが時間とともに次第に「成長」する.もしその個体が「死亡」すると,その一個体は完全にモデルの林分の世界から消滅する.
Q. IBM を使ってどうやって結果を得るのか?
A. ある初期状態からIBM の計算方法にしたがって個体数を増減させ個体を成長させた.これを1000年分続け,毎年の状態を記録した.1000年分の記録を「一試行」と呼ぶ.この試行を500回繰り返し,それを標本集団としてその統計的性質を調べた.
Q. 「初期状態」とは何か?
A. 林分内に何もない状態.ここでは.
Q. なぜIBM では500回も試行をサンプリングするのか?
A. 確率論的なモデルでは一試行ごとに結果(林分動態の挙動)が異なる.少数のサンプルに関してだけ調べるのは十分ではない.そこで,数多くの試行の標本集団の統計的な性質(さまざまな生態学的な指標の平均値・分散など)が「そのモデルの性質」とみなしている.
Q. どういう「統計的性質」に注目したのか?
A. 500 サンプルの標本平均.これを「アンサンブル平均」という.今回は,Basal Area (BA) のアンサンブル平均の時間変化と定常状態でのサイズ分布のアンサンブル平均にだけ着目した.定常状態というのは,シミュレーション開始から時間が十分に経過したあと,BA があまり変化しなくなった状態,とほぼ同じと考えてよい.
Q. IBM を使って得られた結果を要約すると?
A. BA のアンサンブル平均値はシミュレーション開始後200年に変化しなくなった.定常状態での平均BA は約7平方センチメートル/平方メートルだった.一方定常サイズ分布は,両対数プロットで直線に近いものだった.定常状態で林分内に維持されている全個体数は約20 だった.
Q. IBM を用いる利点は?
A. 計算に必要な仮定の数が少なくてすむ.これは森林生態学者の頭の中にある林分動態の描像ともっとも近くなるように計算方法を選んでいるため.
Q. IBM の欠点は?
A. 学術的には特にないと思う.実用的,というか実務的には「面倒なモデルを作ると,計算時間が長くなる」ということ.あと,一部の数理生態学者に嫌われる.
Q. 以上の結果と以下との関連は?
A. 以下では,連続サイズ分布関数を用いた近似計算が以上の結果を再現できるかどうか調べる.
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