反撃の<飛龍><蒼龍>

挑戦:危険な夏

人さまの結婚通知をみて逆上するとは, まぁ, とうてい 尋常なるありさまとは申せまい. いやいや, 私とてその程度の常識は堅持しているはずだ. 吉事を知らせる印刷物に 利他的といってよい気持ちになることさえあるのかもしれない. さらには 仕事の順調な進捗を伝える近況などの添え書きなどあれば 送り手たちへの親しみはいやますばかりだろう.

Gateway で PIII-550. メモリ 192 MB. ハード 13 G をかいました. G ボードは TNT2-32MB.

なるほど. つまり Gateway2000 という会社のデスクトップマシンを買って, それにはこの世の春を謳歌して浮かれているかの Intel 社の Pentium III-550 MHz を CPU と して搭載している, と. うーん, 追求してますね. メモリーも奮発したあげくに, ハードディスクは高密度フロッピィーディスク一万枚ぶんを確保. すごいなぁ. グラフィックボードは三次元表示の得意なチップを. さすがは熟達した「GIS つかい」. 相変わらずのこだわりですよ. ああ, しかも スタパ斎藤師匠に勝るともおとらぬ 「物欲番長」としての勇名を馳せていた衝動買いパワーは健全のようです. うんうん…… 当方の心理を読みきって 計算され尽くしたつぎの一文の衝撃力は 私の性善説者じみた気分を 痕跡すら残さずに粉砕し爆散させたのであった.

OS は もちろん Win98 で, 近々 MS-Office 2000 をかうかもしれません.

「……こ,これほど明確かつあからさまな挑発は」 私は声が震えを止められなかった. なぜに なぜに なぜに Window$98 なのか. ここまで吟味されつくした高性能ハードウェアに. Window$98. 1998 年に発売されながらも (M$ 製品においては当然のことながら) まだまだ2000 年問題に対応できていないからってんで 来月の1999年9月になってようやく Window$98 SE だか何だか Y2K 対策だけでない あれこれどーしよーもない障害をようやく直しましたよーん バグフィックス版を Micro$oft 製品のためなら 見境いなく喜んで金をどしどし投げ捨てる ドブにざらざら流しまくる 着火してばらばら撒き散らす おつむの OS を換装したほうがよさそうな莫迦信者に けっこうな値段で売り付けようとはするものの それはやはり相変わらずバグだらけで 電源まわりなんかはとくにぼろぼろで うっかりインストールなんかしちゃった連中は 終了処理すらできなくなるという はっ何故おれは未来のことまで知っているんだ 意識がとんでいるのか おひす 2000 だぁあ ?

快適な SOHO 生活です. ハハハ……

<飛龍> 在天

次に気がついたときには, ムチャクチャに高価なノートPC の新品が手元にあった. PC-Unix の一族に連なっている Linux, そのインストールが完了しようとしていた. Pentium II-400 MHz を搭載しているはずだが, 例のいやらしい `Intel Inside' その他のシールは 機体表面のどこにも一枚も見当たらない. 何カ所かに 爪でかきむしったような跡が残っているばかりだ. そのありさまはなぜか荒んでいた精神にむしろ安らぎを与えた. キイボードの配列が JIS に準拠して いない と確認すると, 心がますます癒されゆくようであった. IBM 社が専横をきわめた歴史的経緯は知らないわけではないけれど, だからと言って 日本工業規格が押し付けてくる すべての不便に耐えられるほど 愛国的なわけでもない.

14 インチ液晶ディスプレイつき機械の 対価を自分で支払うほどの財力はないので, 研究費で充当することにした. 私は自分のノートPC は去年すでに私費で買ってしまっていたので, かとー大先生にそのマシンは使っていただくことにした. もちろん自己犠牲的なふるまいでは断じてありえない. 費用対効果を最大化する戦略を採択しただけのことだ. よーし, これでIntel 系 CPU 対応の便利なソフトウェアパッケイジが どんどん生産されるに違いない.

A 棟 Linux 機命名基準に照らして そのノート PC は<飛龍> と呼ばれることになった. <飛龍> の梱包箱に入っていた 薄いプラスティックでラップされている よくわからない CD-ROM や冊子のようなものを 不燃物ゴミおよび資源ゴミとして処分していると, ひどく落ち着いた気分が得られたのであった.

「いや, これはまだ反攻の第一撃にすぎないんだよ. もっともっと速い速い計算機を」

終りなき索敵

「われわれには高速計算用に一台新しく必要でしょう. これまでの <闇ルーター> シリーズは ネットワークサーヴィスのコストパフォーマンスを追求した機械でしたからね. 少なくとも CPU のクロック数は 550 MHz を超えているべきだと 確信しています」

「超高速マシンが <闇ネット> 内のどこかにあれば, たしかに素晴らしいかもしれません. ましてや, その導入の動機が あなたの被害妄想や誇大妄想に由来しているのでないならば」

「もちろん. いうところの 『研究遂行上必要不可欠』 とやらにほかなりません」

「して, その必要不可欠なる計算機の中枢たる集積回路は どの製造会社から提供されるべきだと」

「これまでの<闇ルーター> シリーズ同様, AMD を採用できたなら. 同社の新製品 K7 <Athlon> は 覇者の傲りを打ち砕いたようですからね」

「ならば今回も」

「ところが K7 本体ではなく, その磐石の土台たるべきマザーボードが例の不具合で」

「マザーボードのすべてを他社にゆだねてしまっている AMD にとってはまさに切歯扼腕の災難なのかもしれませんね. 一世代前の K6 シリーズならば もはや成熟し安定してはいるものの」

「そう, K6 では 550 MHz を超えることかないません. クロック数フェチストではないつもりですが」

「いやはや. では Intel しか選択の余地がないではありませんか. K7 にあおられるようにして登場した Pentium III-600MHz ですか」

「人間の物欲というものに 高い見識を有している点では Intel 社のマーケティング部門は 尊敬に値すると考えているのですよ. これでも. あっという間に有意性を失う わずか50MHz のクロック数の違いを獲得するためだけに 数万円の差額をすすんで支払う人間が 世の中にかくも多いという事実は 目の当たりにしても未だ信じられないほどでして」

「つまり現時点で最高速クロックを付与されたチップを求めることは, 『限界効用』だの『最適化』だのといった どこか莫迦げたところのある架空概念を満足できないだろう という点において 気に入らないとでもおっしゃりたいのですか. しかしながら, 先ほどから やはりある種の狂気を感じさせるように唱えておられる 『550MHz を超越』 なる 無意味な数値目標はどうなるのです」

「Pentium III-500MHz 二万八千円. これを二枚用いるのです. 600MHz 一枚より安くなるのに 『1GHz マシン』などと僭称できますからねえ. そして Linux の新しいカーネルはデュアル CPU を Symmetrical Multi Processing (SMP) によって 効率よく運用できることで知られています. AMD の CPU が こういった『二枚差し』に対応していないのは残念です. ともあれ, なぜかは知らねど Window$98 にはけしてできない芸当をこなして見せるべきだと 私のゴウストがささやくのですよ. そして技術的困難とその解決は われらにとって古い友人のようなものでしょう」

「何とも面倒なことを命じるゴウストですね. ならば, 妄想と現実的必要性の双子が泣き叫んで求めている 計算機に与えられるはずの名前はどうあるべきだと 耳うちしてくれているのですか」

「<蒼龍>. 命名基準に照らしても, 語呂からいってもそれが適当なのでは」

<蒼龍> は舞い降りた

あとは何もくだくだしく説明する必要はあるまい. 下の xosview を見てもらいたい. 双頭の龍は舞い降りたのである.

xosview@soryu

<蒼龍> のxosview

謝辞

<蒼龍> の組み立て・OS のインストール・試運転には 浦口さん に手伝っていただき, とても助かった. おかげで 今まで経験のない双 CPU マシンが わずか 6 時間できちんと作動するようになった. OS の設定と Linux カーネルの SMP 対応化には いつものごとく かとー大先生 に助けていただいた. また, 大先生謹製の「安心と信頼の ek ブランド rpm パッケイジ 」を大量導入させていただいたおかげで, <蒼龍> は信じがたいほど素早く戦力化されてしまった.

付録

以下の表には共用の主力機とでもいうべき地位にあった <鳳翔> <赤城> <Lex> そして現在の最速機 <蒼龍> の要目と来歴を示す. いずれも 部品のひとつひとつを吟味して 講座内で組み立てられたものである.

組み立てられた主力機の変遷

呼称
ホスト名
IP アドレス
主要構成部品 竣工時期
建造費
来歴
<鳳翔>

hosho (表)
133.87.29.152

hosho-yami (闇)
192.168.1.1
AMD K6-II
200 MHz x 1

RAM 128 MB
SCSI HDD 4 GB
1998 年
5 月 31 日

約 9 万円
(私費)

A 棟 3 階の すべての大学院生に 「接続された世界」を 提供するべく誕生した <一号闇ルーター>. 建造・運用・整備・拡張の各過程において さまざまな技術的知見をもたらした. 1999 年 9 月 現在もルーター・サーヴァーとしての 基幹業務を 手際よく処理している. 304 号室の片隅の <本棚の後ろの力持ち>.
参照: 闇ネット・闇ルーター・闇接続

<赤城>

akagi (闇)
192.168.1.31
AMD K6-II
300 MHz x 1

RAM 64 MB
IDE HDD 4 GB
1999 年
4 月 16 日

約 6 万円
(私費)

A 棟 7 階にも 文明の光を到達させるべく建造された <二号闇ルーター>. 竣工時の名前は <Lex>. その後 <公費 Lex> の 完成にともない 3 階に移籍. <赤城> と改名される. 苫小牧に拉致されて 強制労働に従事させられそうになった 秘められた過去ゆえに <けちけちマシン> と 呼ばれたりもした. 彼女には何の罪もないのに. 現在は 303 号室<お茶部屋>で 人々の娯楽用 Linux 機として活躍し 愛されている人気者である.
参照: 「遠い」演習林,ふたたび

<Lex>

lex (表)
133.87.29.151

lex (闇)
192.168.2.1
AMD K6-II
450 MHz x 1

RAM 128 MB
IDE HDD 4 GB
1999 年
7 月 1 日

約 6 万円
(公費)

「A 棟 7 階移民政策」の一環として 建造が策定されたものの, 技術的に未解決な問題が残されていたために, <赤城>の完成と試運転の 成果を受けて, ようやくのことで 着工された<三号闇ルーター>. ネット化が進んでいない 7 階のルーター業務量は少ないので, その高速性を見込まれて 動画作成など面倒な計算も担当している. <Lexington> が正式な名前.
参照: その名は<Lex>

<蒼龍>

soryu (闇)
192.168.1.35
Intel Pentium III
500 MHz x 2

RAM 256 MB
IDE HDD 13.5 GB
1999 年
9 月 20 日

約 17 万円
(公費)

データー解析・動態モデリング・ データー視覚化に関する 計算生態学的アプローチに必要とされる 膨大な計算量への 1990 年代における 最終的な解答を与えるべく建造された <1000 MHz > 高速計算機. 激浪のごとき 過去十数年の 32 bit 機の 変転を象徴するように 310 号室隅のMac SE30 の隣に控えている彼女は, <3 階闇ネット> 内から発せられる いかなる計算命令にも <対称的多重化処理> (SMP, symmetrical multi processing) によってすばやく対処できる 画期的な性能をもつ.
参照: (このペイジ)

また, 上記以外にもおもに個人に (いわゆるデスクトップ機として) 使われている Linux マシンが7 台ほど存在する. その一部の要目を以下に掲載している.

講座内のその他の Linux 機の一部

呼称
ホスト名
主要構成部品 調達時期
費用
来歴
<龍驤>

ryujo
Intel Pentium
166 MHz x 1

RAM 96 MB
IDE HDD 2 GB
8 inch LCD
US keyboard
1998 年
11 月ごろ

約 20 万円
(私費)

いわゆる<チャンドラ II >タイプの サブノート PC であり, 購入先は山口県某所の戦闘的 PC 製造販売業者 <フロンティア神代 (こうじろ)> (現在はすでに販売されていない). 久保の愛機であり, 1.3 Kg という軽量ゆえに 頻繁にあちこちに連れていかれる. いざとなれば 面倒なシミュレイションなどもこなす万能機. ホスト名「りゅーじょー」は 語感がよくないような気もするので, 「ちゃんどら」と呼ばれることも多い.

<飛龍>

hiryu
Intel Pentium II
400 MHz x 1

RAM 256 MB
IDE HDD 6 GB
14 inch LCD
US keyboard
1999 年
8 月ごろ

約 41 万円
(公費)

練達にして危険きわまりない大魔導師 かとー大先生 を Macintosh 用 Linux という 奇怪かつマニアックすぎる暗黒世界から ひきずり出し, 薄汚れた Intel 系の PC Linux 世界を ハッキングしていただくために導入された Gateway 2000 製の高性能 ノートPC. 当初のもくろみどおり 高品質かつニーズを把握した ek ブランド rpm パッケイジ の製造にとても役立っている.

<負債の担保>

tampo
Intel Pentium II
400 MHz x 1

RAM 128 MB
IDE HDD 4 GB
1999 年
6 月ごろ

約 9 万円
(公費)

A 棟 5/6 階の某講座用 <闇ルーター> として 組み立てられ 運用されてはいるものの, 施工主の 建造費の支払いがとどこおっているので, われわれに対する負債の担保として スーパーユーザー権その他が 差し押さえられたままになっている. ネットワーク上の植民地とも呼ばれている.
参照: その名は<Lex>


(1999.09.26)
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