はるかな昔, どこか 「遠い」演習林 で……
今朝,
演習林庁舎に来てみると,
A くんが眠そうな疲れた顔で
(この人はいつでもそうだ)
「今日は
札幌の地環研から
久保さんという人と
加藤さんが来て,
ぼくらの研究室に
<闇ネット> を作ってくれるんだ」
と言った.
何,
その<闇ネット> って?
A くんもよくわかっていないらしく
「札幌の北大キャンパスでは,
みんなのコンピューターが
研究室内のEthernet 網につながっていて,
それでインターネット接続が……」
とか何とか.
この演習林がインターネット接続できるんなら,
それは素晴らしいけど,
たしか
ここって電話線以外ではつながらないんじゃなかったのかな.
そもそも
何で地環研の人が農学部所属の演習林にネットを作りに来るのかも
よくわからない.
たしかに
加藤さんたち地環研の人たちは
ここのフィールドでデーター取ってるけど.
昼すぎ,
その久保さんが加藤さんといっしょにやってきた.
久保さんというのは,
視線がどっちを向いているのかよくわからない
アヤしげな人だ.
コンピューターおたくなのかな.
年齢なんかもよくわからない.
最近は雑用におわれがちな
B 先生が自室から出てきて,
久保さんに質問した.
「学生のコンピューターを接続してくれるらしいけど,
昼間はインターネットにはつながらないように設定できるか」
「え?
ええ,まぁ……
そりゃあ,
やろうと思えばそういう設定はできますよ」
「じゃあ,
そうしてくれ」
と言い残して,
B 先生は去っていった.
残された久保さんたちの会話.
「いきなり,何なんだろう」
「いやー,
以前は
インターネット接続するためには
札幌に電話をかけなければならない時代があったんですけど……
そのときに一月の電話代が20万円になったことがあって,
それからというもの……」
「だって,
今は市内電話料金だけでしょう.
一時間つなぎっぱなしにしたって200円じゃないですか.
プロヴァイダーへの支払いは定額だし」
「B 先生はいいヒトなんですけど,
ちょっとばかり金銭感覚がきびしいんですよ.
先日も,助手のC さんがB 先生の車に
『けち』って落書きしてたくらいで」
「なるほどー,
この演習林では言いたいことがあれば
車に落書きしてそれを伝えるというシステムなんですね」
そんなわけないでしょう.
「いや,
とくにそれがシステムというような……」
「電話代ですけど,
月々せいぜい数万円でなんとかなるんじゃあないんですか.
今後は定額制なんかが導入されて安くなっていくはずだし.
あるいはダウンロードだけは通信衛星経由にするとか.
1.5Mbps ですよ」
「ぼくじゃなくて
B 先生に言ってくださいよ」
「……
いやはや,
ともかく
<闇ルーター> には
そんな『昼間は接続拒否』とか
バカげた設定はやりませんから」
「え,
でもさっき……」
「できる,
と言ったかもしれんが,
やるとは言ってませんよ」
なんて
いんちきな.
<闇ルーター> というのが 院生用コンピューターネットワークの起点というか根幹をなす コンピューターらしい. そこから接続用ケイブルを (トポロジカルには) 樹形状にのばしていく, とのこと. 院生用<闇ネット> は <闇ルーター> を介して 「外」のネットワークにつながっている…… <闇ルーター> にはLinux という無料のOS を入れる (何で無料なんだろ?), うんぬん. 横で話を聞いていると, 結局その<闇ネット> とかいうものを作っても, この演習林がインターネットにいつでもつながるわけではないらしい. なーんだ. やっぱり 全然 いままでと変りないじゃない.
技官のD さんが 事務室に余っていたWindows マシンを 二階の院生たちの研究室に持ってきた. まずは, Windows を削除して Linux というOS をインストールするらしい. 久保さんは A くんにエラソーにあれこれと解説しながら 作業を進めた. 他の院生もいる研究室内でやってるんだから, もうちょっと静かにしてほしい.
Linux というのを見たことがなかったので
横からのぞいてみたんだけど,
黒い背景の地味な画面にいっぱい
よくわからない文字ばかりがならんでいた.
ずいぶんと古いシステムじゃないんだろうか.
久保さんは,
「え,
いや,
あの,
まだ設定中だから,
ほら.
あ,
だけど,
そのこーいうグラフィカルな画面もありますよ」
とか言って,
画面を切り替えて見せた.
なんだか
見たこともないアイコンばかりが並んでいる.
OS は無事にインストールできたらしい
(わぁわぁ騒ぎながらやってるので
こっちにまで進捗状況が全部聞こえてしまう).
今度はなにやら
本体を分解している.
「ほら,
ね.
ここ,
このPCI バスにEthernet LAN カードを挿して」
「あ,
つまりこっちが<表ネット> 用で
こっちは<闇> 用ということで」
「そーそー,
PC なんて簡単なモノでしょう」
ところが,
久保さんはその簡単なはずの設定でコケているらしい.
「おっかしいな……
かとー大先生,
何でですかねえ」
困ったときだけ「大先生」とか呼んだりしてるんだろうなぁ.
久保さんの設定はミスだらけらしく,
加藤さんはすっかり逆上している.
「あーっ,
何ですか.
こんなカーネルの設定じゃあ
IP マスカレイドは通らないでしょう」
「すみません.
すみません.
昨日はほとんど寝てなくて.
今朝も零時起床で」
どーいう生活パターン.
「ちょっとIRQ とか変なんじゃあないですか」
「え,
でも,
これはその」
「あっ,
これはひどい.
このボード,
ちゃんと挿さっていなーい」
「あれ,
それじゃあダメですか」
「IRQ とPCI バスの関係はそこに書いてあるでしょう」
「あ,
なーるほど.
知らなかった.
よくご存じですね」
「OS のネットワークの設定もダメダメですよ,
久保さん.
ちょっとキイボード,
貸してください」
「はいはい……
おっ,
通った通った.
すごいすごい.
いやぁー,
さすがはかとー大先生」
あんたは口先だけかい.
そのルーターってのは完成したらしく,
今度は配線工事を始めた.
この院生研究室の真ん中にタコ足配線用のHUB を設置して
それを部屋のすみのルーターと接続している.
ところが,
その場にいる院生の持っている
Mac やWindows 機のどれもネット接続用のポートがないとわかると,
久保さんは
「いやはや,
どーしよーもないなー」
とか言いながら,
ルーターとHUB を取り外して下の院生部屋に持っていってしまった.
一階で配線工事をやりなおし,
ようやくA くんのMac がネットワークにつながったらしい.
だけど結局のところ今日,
いうところの<闇ネット> につながったのはこの一台だけで,
とてもではないがネットワークというカンジではない.
Performa というMac を持っているE ちゃんが
「あたしの持っているMac は接続できますか」
と久保さんに尋ねたところ
「えっ,
ああ,あのPerfoma.
うーん,
一万円ぐらい出してEthernet LAN カードを買わなきゃダメですね」
というツレない返事.
Sony のVAIO を持っているF さんに対しても
「おっ,
ノートPC でしたら5000円も出してPCMCIA カードを買えばOK ですよ」
とか言ってる.
だれがそのお金を出すんだろうね.
23時すぎ, 久保さんたちがあわただしく札幌に帰っていった. 二階の院生研究室には ただ一本のEthernet ケイブルだけが天井に残されている. いったい全体, 何をやりたかったのだろう. こっちの学生部屋にもネットワークを作るためには まだもう一台Linux マシンがないとダメらしい. どうして, こんな20人もいないような学生たちの コンピューターを接続するためだけに 二台もその「ルーター」というのが必要になるのかなぁ. だいたい二台目はどこにあるというんだろう. 何もかもよくわからない.
…… 非常に残念なお知らせがあります. 演習林の方針としては庁舎から直接回線をもらえるパソコン, ルーター(で良いのですよね)は「1つだけ」だそうです. 演習林の備品以外のパソコンで事務所と接続することはできないとの事なので..... ……
…… くだんの演習林闇ネット騒動で久保さんが発狂しています. きけば 「神聖なる伝統ある演習林の公費ネットに 汚れた学生の私物から汚れた電波(?)を混入することは まかりならん」 とのお達しがあったそうですが. (久保) 「そうかもしや 文化人類学的には『えんがちょ』と呼ばれる現象(えんがちょシステム) ではないか.そしてこのシステムは 大人数(ここ,ちかんけん)でも少人数(道北の演習林)でもなく 中程度の人数の所帯で発生しやすい.これを中規模人数仮説と呼ぼう」……
そのあと久保さんは驚異的なスピードで 電子百科辞典で「不浄」「禁忌」「たたり」「タブー」 などの項目を検索した上, 「演習林の秩序を守る人々は不浄への(電気的?)接触によって禁忌をおかし 超自然からの罰をうけることを恐れているようだ」 と結論したらしい. 「ちくしょうちくしょう」とつぶやきながら 虚空へ向かってガチャック(紙を束ねてとめるアレ)を連打していた. 「博士の異常な愛情」のリッパー将軍ってわかる? 「ソ連の赤い連中が我々の体液にフッ素を混入している. もはや我が国も汚染されつつあるのだ」 どーもこのビデオをみせてから久保さんがおかしくなったような気がする. ……
…… 確かに,「『きたなさ』が問題になるあらゆる場面で、われわれは共同性をめぐっ ての侵入する暴力と排除する暴力のせめぎあいを目撃することになるはずである」 のかもしれません.この場面に演習林は立ち会っているのかもしれない.ネット ワークの導入が演習林にとって「とりこみ」という行為であり,さらには痛くも かゆくもないものを排除したりはしない事を考えると,演習林の教官・事務官の 「あくまで一部」は「きたなさ」としてネットワークを認知しているのかもしれ ません.文化相対主義からの対等性という言葉をもちろん久保さんは虚無的に用 いているのでしょうが(そう考えると,カルチャルウォーズという出来事も,ま さに「暴力」のせめぎあいなのかもしれませんね:余談),相対主義は絶対主義 に負けてしまうという悲劇も存在します. ……
汚れつちまつたルウタアに 今日も小雪の降りかかる 汚れつちまつたルウタアに 今日も風さへ吹きすぎる |
汚れつちまつたルウタアに いたいたしくも怖気づき 汚れつちまつたルウタアに なすところもなく日は暮れる |
…… 昨日は,久保さん・加藤さんが演習林へまた来ていたとはつゆ知らず, 家でのうのうと寝ていました. ……
今朝, 庁舎の研究室に入ってなんだか違和感があった. よく見回してみると, 例のEthernet というケイブルが 先週よりさらに増殖していて, どうも みんなの机の上のパソコンが接続されているようだ. 誰がいつの間にやったんだろう. 不気味だ. おまけに, 一階と二階に別れている院生の研究室が 長ーいEthernet ケイブルで無理やり接続されてしまっている.
「学生用ネットワークの管理者」になったらしい A くんに聞いてみると…… やはり土・日にあの久保さんと加藤さんが またやって来て, いろいろとこっそり設置していったらしい. なんて非常識な人たちだ. A くんは 「これで, みんな机の上からメイルの読み書きとかできるし, ネットワーク経由で ファイルのやりとりとか プリンターから印刷できるよ」 と嬉しそう.
Mac なんかのEthernet LAN カードなんかも,
久保さんたちが北大生協で人数分買ってきたそうだ.
「この演習林に請求が来るようにしておいたから,
けちけちB 先生が支払いを拒否しても生協が困るだけで,
こっちは全然かまいませんよ」
とか何とか
利己的なことを言ってたらしい.
しかも
みんなのコンピューターに勝手に取り付けていったそうだ.
もうムチャクチャとしか言いいようがない.
たしかに院生たちのマシンが相互に接続はされたけど,
だからといって何をやってもいいというワケないでしょう.
うーん, しかも相変わらずこの演習林は 電話線でしか外につながっていないわけだし (電話じゃなくてISDN だったかな), 学生の研究室内と庁舎内の研究室間に ネットを張ってもなぁ…… B 先生はゼッタイに 「昼間のWWW 利用はダメだ」 と言い続けるだろう. ホント何のための<闇ネット>なんだろう?
【NTT再編成速報】 新生NTTの宮津社長が再編を総括 定額IPなど新サービスも続々発表(99/07/01) …… まず新サービスは, (1)定額制IP接続サービス (2)学校インターネット用割引サービス (3)市内定額型割引サービス (4)ADSL を利用したインターネット用アクセス回線サービス −−の4種類を明らかにし た。(2),(3)は9月にも本サービスを開始,(1)と(4)は99年中に 試験サービスを始める。値下げは,市外電話と専用線に関して 今秋に実施する。 …… 同時に,1万円程度で常時接続できるインターネット接続サー ビスの新プランも明らかにした。OCNのメニューに追加する。定 額制IP接続サービスと合わせれば,月間約2万円でインターネッ トの常時接続サービスを利用できる。最高速度は64kビット/秒 だが,現行の3万8000円の「OCNエコノミー」(128kビット/秒) よりも安くインターネットの常時接続が利用できるようにな る。 ……
(記録の引用を許してくださった皆様に感謝します. あ, 日経には断りをいれていないなぁ…… ま, いいか…… [久保])