サイズ構造のある森林動態モデルを
正しく計算する
久保拓弥(九大・理・生物)・
井田秀行(長野県自然保護研)・
S. W. Pacala (Princeton University)
サイズ構造のある森林動態モデルでは
一方向的競争
という単純化がよく用いられる.
「大きい個体から小さい個体への影響は存在するが,
逆方向には影響しない」という仮定である.
これが正しいとして
「大きい樹木に被陰されている小さな個体は死亡率が大きくなる」
という法則が成立している森林があったとしよう.
このような森林の各所で観測を行ったならば
「大きい個体の近くには小さな個体が少ない」
「小さな個体がたくさんいる場所に大きな個体が存在する確率は低い」
といった負の相関が発見されるだろう.
ところが,これまで主流であった一変数移流方程式では
大小個体間の相関がつねにゼロであると仮定(平均場近似)して
計算するため,
手法として適切でない可能性がある.
そこで,本研究では3種の近似計算方法,
平均場近似・パッチ齢近似(甲山近似)・
共分散近似(Bolker-Pacala近似)を比較することで,
それぞれの問題点を検討する.
西中国山地・十方山の観測データに基づいた
サイズ構造のあるブナ林分のIndividual Based Model の出力と
上記の計算方法を比較すると:
1) 平均場近似はまったく不正確;
2) パッチ齢近似は合計胸高断面積の予測には有用;
3) 共分散近似は正確なサイズ分布を予測する,
という結果が得られた.
このことから,
森林動態モデルの計算には大小個体間の
負の共分散構造を考慮することが重要であるとわかった.