2003.01.01 新春特別記事

北海道ハワイ化計画

旧年こと 2002 年もまたここ北海道にとっては厳しい 一年間 であった. AIRDO 破綻・ 雪印ブランド失墜・ コンサドーレJ2落ち・ 西友食肉偽装/客も偽装・ 「北の国から」終了・ ムネヲ/釧路市長/道警警部逮捕・ 釧路太平洋鉱山閉山・ 公共土木事業費「北海道シェア」10%われ …… 道民以外には「なにそれ?」な内容もあるにはせよ, ここ北辺の地がかみしめているいと深き蹉跌は伝わってくるであろう.

このような暗澹たる総括を受け入れつつある年の瀬に, まさに驚嘆すべき北海道再生計画を記した一通の書簡を受け取った. 差出人は筆者の私淑する 平八郎提督 その人である. 提督は国内でもっとも知られた 海軍燃料工廠附の研究所に勤められたのちに, 現在は南関東で教務についておられる.

このたび提督が筆者に明かされた計画は 現況の抜本的な打開を企図したものであった. しかもその波及効果は局地にとどまらず 日本全国いやそれを超えて拡がることは間違いない. そこで, ここにとくにお許しをえて, 本日新春吉日を期してその深慮遠謀を広く世界に公開する.

そもそもことのおこりは 2002 年春に遡る. 筆者は 4 月に札幌に移転し, そのさいお世話になった提督への御礼とて 当地の菓子類をお送りしたところ, 丁寧なる礼状をいただいた. その中で, そちらでは閉塞感ただようようだが 再出発の鍵はかかる六花亭菓子詰め合わせにも潜在しうる と指摘された上で雄大なる戦略の一端のみを開陳された.

だが、 これだけでは北海道復興は厳しいかもしれん。
そこで、 お礼に一つ策を進ぜよう。
それは、 北海道ハワイ化計画だ。
シベリアでは余りにも暗すぎる。
そこで一挙に北海道はハワイイ諸島の一部だと言い張るのだ。
道民こぞってアロハアロハと挨拶し、
雪が降ろうが、 立ち木が凍って割れようが、 アロハシャツに
サンダルで過ごせば、 こころうきうきトロピカルだ。
これしかない。 少なくとも、 貴殿なら苦もなくやれるはずだ。
健闘を祈りに祈る。

じつのところ筆者はこれを読んだ時点では, 凍土の地と常夏の島を連環させんとする提督の深意を まったく測れなかったと告白せねばならぬ. そして当方の貧困なる認識は 先方には言わずとも知れたところであった. それゆえに, 年末にいたってその詳細を述する文書を 送ってくださった次第だ. 以下にその内容を引用する. 筆者の蛇足なる解説が付されていることは了とされたい.

ずいぶんとあれからたってしまったが、 いわば逆転の発想とも言える、 しかし抜本的な道改革案である、 北海道ハワイ化計画に貴殿はおそらく、 感銘を受けたであろう。 あるいは既に、 道知事や在道自衛隊幹部に、 このことを遂行すべく面談を申し込み活動を開始しているのかもしれない。 だがこれは遠大な日本再生プロセスの序章にしか過ぎないのだ。

ここで提督の「北海道ハワイ化計画」が単なる地域振興を超えた 壮大なる構想のもとに策定されたことが明かされている.

北海道のハワイへの帰属は、 京都議定書に同調しない米国への追随を意味する。 地球温暖化は、 ハワイ化への重要なステップだ。 北海道の日本からの離脱は、 東京政府にとっては二重の打撃だ。 議長国としてのメンツもなくなるし、 道の森林をあてに出来なくなるからだ。 そこで京都議定書の埒外ながら、 東京政府に排出権を売りつければよいのだ。 昔の誼で一割引でも良かろう。

この一節はまさに圧巻であり, 提督による 「逆の逆をつく」 と評するほかない 古今独歩なる論理展開がなされると同時に, 窮地のどん底におちいった東京政府に「昔の誼 (よしみ)」で対応してみせる 懐の深さも示されている.

北海道ハワイ化には、 必ずおまけが付くはずだ。 それは所謂北方四島だ。 日本なら断固反対だが、 帰属先がアメリカなら現四島住民はよろこんで北海道に与するはずだ。 四島以外は後々面倒になるので、 仲間には入れない。

ここでは提督が理念の構築に長けているばかりでなく, すぐれた現実認識の持ち主でもあることが示される. なるほど「失われた超大国」に帰属する人々の心に内在する不安感を癒すには, さしあたり別の「超大国」に新たにつくのが最良であろう.

ハワイ州に帰属すれば、 面積と人口からいって北海道がハワイ州の実権を握るのにさほど時間はかかるまい。 その間、 日本本国は次のステップに移行しなければならない。 東京以外全部独立計画だ。 より正確には、 武蔵および両総三国あたりを東京政府となし、 その他は新たに別の国体を奉ずるのだ。 国名は、 おほやしま自治体連合国くらいでどうだろうか。 これにより、 私の以前からの考えである、 日本分割民営化の一歩が踏み出せるのだ。

ついに「日本分割民営化」 なる窮極の民主主義・民族自治を目指した構想の一端が明らかにされる. むろん必要条件のひとつである「ハワイの実権」 獲得もまた民主的な過程を背景にしたものであると想像され, それは人口学的問題に地理的要素を加味することで 双方の島民の不利益にならぬものになりそうだ. なにしろ, ハワイの北海道化などではなく, 北海道のハワイ化こそを目指しているのだから. 言うまでもなく, この実現にあたって 「なにごとであれのんびりしていて押しつけがましくない」 とされる当代の一般的な道民気質も注意深く勘案されていることは疑いない.

600兆を超える借金を東京政府に押しつけて、 あとは知らん振りで、 のんびり産業、 教育等の再構築をすればよい。 東京は対外債権でなんとかすればよいのだ。 北海道を除けば最強の自衛隊が九州にある。 どんとこいだ。

これは乱暴な議論に聞こえるかもしれないが, ことごとく本質をついたものである. そもそも「借金」とはシステムの機能不全の結果にすぎないわけで, そういった「劣悪な点数をつけられて返却された試験答案」 に右往左往している昨今の愚を暗に諭しておられるのだろう. 提督が 喝破されているように, むしろこういった 600 兆円ごときの細々とした問題の解決にこそ, 債権でもって債務を制する といったマクロな思考法であたるべきなのかもしれない.

日本分割による社会経済機構の再編成と 教育の脱均一化・深化を視座にすえつつ, 国防に関しては防衛庁いうところの 西方重視を「世界一強い九州の兵隊さん」 (と堂々と印刷した帯をつけた書籍が西国の本屋では販売されている) でもって実現すればよしとする明快な方針だ.

自治体連合が成立後、 北海道を盟主とするハワイ州はアメリカを離脱し、 おほやしま自治体連合に参加すればよい。 当然、 アメリカと自治体連合との関係は悪化する。 悪化したついでに関係を絶ち、 沖縄から米軍基地を追い出せば良いのだ。 安全保障については中韓と連携する。 東京政府はずっこける。 だが相手にしない。

襤褸のごとく複雑なる同盟問題も 提督は鮮かに整理してみせる.

思えばカメハメハ大王だったかは、 アメリカの侵入に脅威を感じ、 明治政府に救援を求めたのであった。 しかし国力の差を鑑み、 明治大帝は涙を呑んで断らざるを得なかったのだ。 日本とハワイの無念が、 いま北方領土付きで晴らされるのである。

ここにおいて歴史を洞察する提督の透徹した視点が提供されている. 述べられている明治期の日布同盟問題とは, いわば知られざる 史実 のひとつであり (あるいは こちら ), 極東の新興弱小帝国には抗するすべがなかったのもそのとおりだ. しかしながら, このときに大国の無法なる狼藉を牽制すべくハワイ諸島に派遣されたのが, かの有名なる帝国海軍巡洋艦 <浪速> と知れば読者は驚くことであろう. 平八郎提督の北海道ハワイ化計画の着想は この事件を機に得られたと思惟される.

なお当時のハワイ王カラカウアではなく「カメハメハ大王」 の名が挙げられているのは, 教養の欠落した筆者に配慮した「言い換え」 と察せられる.

いうまでもなくこれは、 10年以上前山岳部の上層部で議論されていた九州独立論を拡張したものだが、 反グローバリズムと西太平洋の共栄を意図している。

この独立計画が九州大学山岳部において 実際に繰り返されていた議論だと筆者には証言できる. 一連の構想は長きにわたって練りに練られてきた経緯をもつ, ということだ.

問題が一つある。 それは、 いま私が東京都民であることだ。 全く予期していないことだった。 早々にさすらいの旅に出るべきであるのだが、 今しばらくの猶予を願う。

このあたりは 漂泊の粋人 なる雅号を有される提督の面目躍如というほかない.

北海道にはシベリアくずれの間諜が多かろうから、 北海道ハワイ化計画以降のプロセスについては絶対に秘密だ。 計画のアウトラインを明かしたのは貴殿のみなので、 そのことに十分留意し、 他言は無用のことと心得有度。

しかしながら, 事態はすでにおおやけにして進めるべき段階に達している, という筆者の判断から計画公表を提督に進言したところ, 「よろしく道民諸衆より猛士を募り、 西太平洋共栄の途を拓くべし」 と指令した電文によって次なる前進への決意を示していただいた.

もし氷点下の北海道を訪れる機会があり, そこにアロハシャツ着用しウクレレを抱える若者たちが 猛吹雪の中に敢然として立っている姿を見いだしたならば, 臆せずに「あろはー」と声をかけてやってほしい …… 凍てついた北の大地の再生をかけた北海道ハワイ化計画. この雄渾無比なる壮途は, まずはそこから何もかもが始まるのだから.

(報告: 久保拓弥)

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