この章の著者:Peter G.L. Klinkhamer and T.J. de Jong
この章の紹介:久保拓弥 kubo@ees.hokudai.ac.jp
PDF 版ですと欄外脚注にあれこれ悪口を書いておりますので,
より楽しめるかもしれません.
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「生活史理論」というのは, Sterns (1992) や Roff (1992) によると……
ということを扱う.
生活史理論てのは 上の三問題つまり繁殖への資源配分問題に関して, さまざまな生物に共通にみられるパターンを記述するだけでなく, それに進化的説明をつけ加えるし, ここで生理生態学との研究の関連が重要になってくる.
この章では 雌雄同株 (hermaphrodite) 一回繁殖性 (monocarpic) 植物に限定して 上の「オス・メスへの資源配分」問題を取り扱う. 雌雄同株の植物は植物界では 72% を占める多数派だけれど, これまであまり「オス・メス資源配分問題」考える 材料に使われていなかった. むしろ雌雄異株 (dioecy) の進化や 雌性両全性異株 (gynodioecious) の集団で オスの不稔が維持されていることなんかが研究されてきた.
Horovitz (1978), Loyd and Bawa (1984), Charnov (1984), Goldman and Willson (1986) そして Burnet (1992) などなどの研究によって, 雌雄同株の植物においては 「有効な」(effective) オス・メスの量が同じである 必要はないと認識されるようになってきた.
むかしむかしは……
雌雄同株植物において性配分を変えるやり方は二通りあって……
多くの雌雄同株植物では種子を作らない花を多数つける. これは「オスの花」とみなしてよいかも.
性配分理論ではオスとメスの間のトレイドオフを仮定するのが ふつーだ. 単位投資あたり適応度がもっとも増えるように 自然淘汰は働いてるに違いないと考えられている (たーくさんの論文一覧).
ある配分パターンが「適応的」かどうかを調べるには適応度曲線を描け. これは「オスもしくはメスに対する投資」 に対して 「適応度の利得」をあらわす曲線である.
ここでは雌雄同株であると同時に一回繁殖性であるような 種を取り扱う. 一回しか繁殖できないような植物なので, 入手可能な資源はすべて繁殖に回される. 適応度曲線を描く場合には, 植物の重量が繁殖への投資と密接な関係にある. 動物と違って, 集団内での繁殖個体のサイズのばらつきは大きい. 動物(花粉)媒植物にとって, 体のサイズが適応度が与える影響はさまざまである. ここではわれわれがもっとも重要と考える問題だけ議論する.
大きな花をつけているとより多くの花粉媒介者を誘因できるので, たくさんより良い種子を作れるから, サイズの大きな個体は「よい」母親になれるかもしれない. しかし多くの植物では, 花粉の獲得数は種子生産の制約になってない (Willson and Burley, 1983; ただし Burd, 1994 も見よ). 同じく質の点でもサイズはあまり影響してないみたいだ. Dudash (1991) は Sabatia angularis では サイズによって種子生産数は 20-40 倍ほど違うんだけど, 種子散布範囲は に有意差はなかった. うーん, ということで, まだホントかどうかわからないんだけど, 同じ範囲にたくさんの種子がばらまかれて 局所的な資源競争がキビしくなるから, 大きな植物ほど投資に対する利得が悪くなる, つまりメスの適応度曲線が頭打ちになるってことに しちゃいましょう.
花が大きいほど たくさん花粉媒介者が来るみたいけど, そうなると問題になってくるのは, こいつらは同じ植物個体の別の花に花粉を運んじゃうんで, 他の個体に運ぶのに効果的じゃあない. 大きな植物ほどこういう隣花受粉 (geitonogamy) をやってるみたいだ (Dudash, 1991; de Jong et al., 1992). 自家不和合だったり 他家由来の花粉より受精率悪かったり 受精しても近交弱勢で適応度下がるんなら 隣花受粉はオスとして資源の無駄だ. それだけじゃなく, 自家不和合や近交弱勢がないときでも, もしサイズとともに自殖率増えるんなら, オスの適応度曲線は頭打ちになる (de Jong et al., 1997).
オス・メスへの資源配分様式を自由に変えられるなら, たとえば Fig.1 の左みたいに メスの適応度曲線がオスより先にへたるんなら, 植物はサイズ大きくなるにつれ種子に資源を回さなくなるだろう.
いままでこういう二つの 可能な資源配分方式 について議論できるような 実際のデーターはない. ということで, みなさん がんばってデーター取ってください. 当節流行してる分子生物学的テクニック使えば, 種子がどの個体の花粉でできてるかわかって ますます便利かもね (Snow and Lewis, 1993).
Cynoglossum officinale は一回繁殖性の多年草 (perennial) で, われわれはこれを Hague 近くの Meijendel の砂丘で研究した. いつ繁殖するかは齢にはあまり関係なくて, むしろサイズに依存している. この Cynoglossum の生活サイクルは …… (中略) …… 花を三つ同時につける. もっとも多い訪花者は Bombus のたぐいで, ミツバチはめったに来ない. 自殖種子の割合はサイズとともに増大し, 最大 60% に達する (Vrieling el al., 1997).
この Cynoglossum は種子が熟したあとでもしばらく植物上にとどまり, しかも Fig.2 で示しているように 最大 4個までしか作らないんで, 数えるのがとても便利だ.
植物の重量 に対する
種子または花の生産量 の関係を見るために
こういう数式モデルを導入しよう.
何年もいろんな集団で調べたんだけど, 傾向はおんなじみたいだから, ひとつにまとめちゃいます. Fig.3A は個体あたりの種子総数対個体の総重量なんですけど, これってほとんど比例といってよいでしょう. なにしろ傾きは 1 に近いんですから. Fig.4A 見てもらったらわかりますけど, 植物のサイズにかかわりなく種子数 / 総重量は 一定だ. ということで, 以上二点から 種子総重量も個体サイズに比例しまーす.
Fig.3C 見てもらいますと, 個体あたりの花の数とサイズって, でプロットすると傾きが 1 より 有意に小さい. Fig.4B に示されてるとおり, 小さい植物のほうが体重あたりでは たくさんの花を作っているということだ. なにしろこれは有意 なんだからね. サイズ 1g 2g だと花が 90 個も 増えるのに, サイズ 60g 61g だと 12 個しか 増えないってことだね.
5% の花でだけ種子が 4 個もできる一方で, 62% の花では種子がなかった. 個体あたりの「花あたりの種子数」の平均値のレインジは 0 から 2 となった (Fig.3D). Fig.3A と C から, この比もサイズとともに増える.
9 個体しか調べてないんだけど, 「花あたりの花粉数」の平均は 30,000 から 155,000 ってトコでした. ばらついてるけど, サイズへの依存性は有意じゃなかったんで. 「花あたりの花粉数」は 平均 54,000 に SD 12,000 だった (大小サイズグループそれぞれから 10 サンプル).
「花あたりの花粉数」 はサイズに依存してなかった. 「個体の重量あたりの花数」 はサイズとともに減少してた. ということで, 小さい個体は オスとしての繁殖に資源を投資し (花あたりより少ない種子数の花を相対的にたくさんつける) 大きな個体は メスとしての繁殖している (花あたりより多い種子数の花を相対的に少数つける), と結論する.
「なんで大きい植物個体ほど 『メスっぽく』 (increasing femaleness) なるのか」
大きなサイズの個体は花をたくさんつけるので, より多くの花粉媒介者を引き付け, 花粉をたくさん入手できるので, 花粉による種子生産の制限なくなる.
たしかに この Cynoglossum の場合, 花 10 個の個体に比べ, 花 100 個の個体に来たマルハナバチの数は 50% も多かった. そこで花粉と水を制限する野外実験をやってみた (hand-pollinationによる花粉追加, 水追加,両方の三区). 水追加によって, 個体あたりの種子数と花あたりの種子数は増えたが, 花粉追加ではどちらも増えず, 花粉・水の交互作用はなかった. 花を 50% ほど除去すると, 残された花は倍の種子を作ることできるだろう. よって Cynoglossum の種子生産は 資源 (水) によって制限されているが, 花粉による制限はない.
土壌の栄養塩類や水といった環境要因は 植物のサイズを増加させるだけでなく, 植物体内の栄養塩類や水を増やすので 花あたりの種子数が増えるだろう.
たしかに水を与える実験では, それによって種子生産が 50% 増えた. しかし Fig.6 に見られるように, 水条件はサイズとは独立なのに, オス・メスへの配分はサイズ依存になった. そのうえ, この仮説では, この Cynoglossum において見られるような 小さい個体ほど「個体重量あたりの花数」 が多いということを説明できない. だから却下.
環境とは独立に植物のサイズに依存して, 種子を捨てる (abortion) 割合が違ってくる. 小さい個体ほどたくさん捨てているので 「花あたりの種子数」が小さい.
この仮説は種子と花の生産の間のトレイドオフを仮定してる. 花粉制限の実験の結果だと, この Cynoglossum では 花と種子の生産の間にトレイドオフがあった. ハンドポリネイションした花だと 0.72 個種子をつけるが, やらないと 0.18 個. しかしながら, 個体重量あたりの花数は 20 から 45 になった. それから, 花を半分除くと, 残された花は種子を二倍作った. このあたりの機構はよくわからんが, 個体の重量が「種子を捨てること」に影響してるよーだ. 少なくとも二つの観察が この第三の仮説との一致を示しているぞ.
Cynoglossum officinate に見られたオス・メスへの資源配分が 他の植物でも再現されてるか文献を調べてみた. けど, ほとんど役に立たなかった. 種子生産についてはいっぱいあるんだけど, オスの繁殖についてはほとんど調べてないんだよね. 花粉まできちんと調べてるのは, やっぱり Cynoglossum ぐらいかな. あ, それから皆さんいろいろ測ってるんだけど, サイズ依存性みたいなそれらの関連は ちゃんと見てないんだよね. もひとつ困ったのは, 植物のサイズといったときに「高さ」とか 一次元的な量は測ってるんだけど, バイオマスとかはやってない. ここがカンジンなんだけどねぇ. いやぁ, いっぱい調べたんだけど, 動物媒の雌雄同株一回繁殖性の植物で, ボクたちの研究ほどまともなヤツってのは たった一つだけでした. Yucca whipplei の研究 (Aker, 1982) では おんなじような結果出してるしね. ま, あとは個体重と「花あたりの種子数」の増加に 有意な関係あったりなかったり,で. 果実あたりの種子数か花あたりの種子数 どっちか一方しか測ってない困ったヤツらが多いんだけど, そいういう結果も入れてやると, 植物の重量が増えたときにメスへの相対的な投資が増えるのは 28事例, 無関係なのは 1 事例, 有意じゃないけど負になってるのが 5 事例だった.
Dudash (1991) が調べた Sabatia angularis だと, サイズ大きくなったときに 花あたりの果実数は 2倍になるけど 花粉数のほうが 1.4 倍にしかなってない. ということで, これもまた 「サイズ大きくなるとメスっぽくなる」 ということだね. Damgaard and Loeschcke (1994) の Brassica napus の ジェンダーの研究によると, 花あたりの種子重ってのは遺伝的系列によって有意に異なってて 地上部の重量が重くなると増えるよーだ.
文献だけじゃなくて, データーを追加して検討してみた. オランダの砂丘の 6 種類の植物, それから Rocky 山脈の Ipomopsis aggregate で いずれも一回繁殖性だ.
Table I にその結果をまとめたんだけど, Cynoglossum も含めて 8 種類の植物のアロメトリー関係って首尾一貫してない. 8 種類のうち 6 種類は 種子数 / 個体重量の 傾きが 1 より大きかったけど, 有意だったのは 2 種だけだった. 傾き 1 より小さかったうちのひとつは有意だった. 個体あたりの花生産だと状況は逆転する. 8 のうち 6 種で傾きは 1 より小さい. 有意なのはそのうち 3 つと, 傾きが 1 より小さかった 1 種. 一番首尾一貫してたのは, 「花あたりの種子数」と個体重量の 順位相関とったやつで 8 のうち 6 種で正の相関がゆーいにあった. これらの我々自身の研究と文献調査の結果から得られるた結論は まことに明白であーる: 一回繁殖性の動物媒の植物では, 小さければオス, 大きければメスとして繁殖している.
まぁ, いろいろとケチはつけたいだろうけど, ともかくボクたちの結論では, 一回繁殖性の動物媒の植物では 小さければオス, 大きければメスとして繁殖しているんだからね. で, こいつはオスの適応度曲線がメスのより先にへたってしまう, ってことで 何もかも説明できてしまうんだ. あー, だけど困ったことに, 「オスだけ」ってのは実際にはあまりいないみたいだね. 文献しらべてみると, 種子を作らない個体ってのは 43 事例中にふたつしかなかった. 「逐次的雌雄同株」 (sequential hermaphrodites, あるときはオスまたべつなときはメスになる株) だと 「小さければオス,大きければメス」ってのが はっきりしてるようだ. 劣悪な環境ではこれが逆転するとか (Freeman et al., 1994 と Niklas, 1994 の文献一覧を見よ).
こーいうサイズ依存性が自然淘汰の帰結だとすると, 他にもあれこれ憶測できそうだね.
……とか何とか 言っちゃったりはしてみたものの, そもそも 最初のふたつはそんなこと検討できるようなデーターが そもそもないんで, まぁ皆さんがこれからがんばってデーターとってください. 三つ目の仮説調べるには, 動物媒と風媒の植物比べればいいんじゃないかと思う. Charnov (1982) とか Charlesworth and Charlesworth (1981) その他 みーんな 「風媒の植物ではオスの適応度曲線は線型だ」 っていってるから, まぁそういうことにしましょう. Burd and Allen (1988) なんかだと下に凸だと言ってるぐらいだしね. こういうのだと 「サイズ大きくなればメスへの投資減る」と期待してよいだろう. 動物媒なんかとは逆だね. うーん, ところが困ったことに, データーがある Vulpia fasiculte と Beta maritima の二種類の風媒の雌雄同株植物だと, 「でかければメス」なんだよね (Watkinson, 1982; Boutin-Stadler, 1987). いやぁ, だけどありがたいことに, 雌雄異花 (monoecy) の植物なんかだと (Freeman et al., 1981; Bickell and Freeman , 1993), Table II (全 23 種) に示してるように, 昆虫媒 (entomophilous) だと 8 種が 「でかければメス」 なのに, 風媒 (anemophilous) 15 種のうち 9 種が 「でかければオス」 なんだよね.
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