お金をかけずに計算環境を整備

(作成980322;改訂980417)

残されたもう一つの選択'98

生態学会大会などでうろうろしていると, こんな質問をうけることがよくある. 「自分もコンピュータのプログラムを作りたいんだけど…… どういうソフトを買えばいいの?」

これを書いている(1998年3月)一年ちょっと前ならば 「えーあのー私はSun のワークステーションでしか プログラムを書いたり走らせたりしてないんで…… ワークステーションとか買われる予定はないですよね?」 といったマヌケな返答しかできなかった. しかし今は違う.今なら確信だか狂信をもってこう答えよう. Pentium かそれ以上のCPU を搭載した PC(IBM PC 互換機)をまず買いましょう. 案外と中古の品なんかのほうがいいかもしれません. そんなに高いものではありません. そしてWindows とかいう妙なものをさっさと削除して [1], 無料のPC-Unix のパッケージをインストールしましょう (CD-ROM 代は数千円必要ですけどね). Linux なんかはどうでしょう. いやー実は私はLinux しか使ったことがないもので. しかしLinux は実行速度が速いですよ……

日本のほとんどの生態学者は仕事にパソコンを使っている. Macintosh ユーザーが大多数だ.私もこの文章などは今のところの 愛機PowerBook540c改で書いている [2]. しかしこの系列のマシンはプログラムを開発したり実行したりするのに さほど好適な機械ではないのではないかと思う(河田雅圭さんや 高橋智さんなら反論があるかもしれない). よく知られているように,MacOS の中核部はもはや時代おくれであり, プログラムのひとつが暴走した場合, それだけを安全に停止することが難しい. “お亡くなりになる”たびに再起動ボタンを 押しつづけるほど私は忍耐心にあふれていない. これは当節流行しているWindows95 だのその後継たる98 でも事情は同じである [3]. 何よりこれらのOS でプログラミング言語を導入しようと思ったら数万円以上の 出費は覚悟しなければならない.その出費の結果として脆弱でやたらと肥大した わけのわかんないプログラム開発キットを入手できる.ありがたいことだ.

Linux 参上

幸いにも,そのような暗黒時代はもすでに終わっている. ダコバのヨーダ師匠ではないけれど,われわれには もうひとつの可能性が残されているからだ.そう,Linux に代表される “free な”PC-Unix たちである.

ここではPC のハードウェアで動作するLinux について説明しよう [4]. このOperating System は1990 年代初頭フィンランドの大学生であった Linus さんによってその中核部(カーネルと呼ばれる)が全くのゼロから 書きおこされた.これにFSF (Free Software Foundation)のGNU として 知られるfree ソフトウェアの開発・配付プロジェクトの成果である さまざまなサーヴァーやツールを付与し,世界中の献身的な人々の書いた デヴァイスドライヴァー [5] を身につけたUnix クローン [6]. それこそはLinux である!

……とかなんとかわけのわかんないことを書き連ねてしまったけど, 私のようなエンドユーザー(というか消費者的大衆ユーザーというか)から 見れば「安いハードウェア環境でもビシバシ動作する 最強に強まったわかりやすくて 無料のプログラム開発環境を提供してくれるソフトウェアパッケージ が準備されている大変に安定した計算プラットフォーム」 という認識でも, まぁーえとそのあのよろしいのではないのではないでしょうか.

Linux はUnix もどきなので,一度に多くのプログラム(タスク)を 実行でき,暴走したプロセスだけを停止させることもできる 堅牢なoperating system である. これほど堅牢である原因のひとつは,これがfree なソフトウェア であることが原因だろう.無料であるから,ソースコードが公開 されている.もしLinux に不具合に報告されれば,世界中の有能な プログラマーがよってたかってソースコードを検討し,バグを発見, 開発者たちはそれを修正して,またそれを公開,多くのユーザーが それをテストして……とよい循環が生じているようである.

そのインストールなどについては他のページ,例えば, とーや師匠のページ [7] などを参照してもらうことにして, 次回はLinux パッケージに含まれる便利な道具たちについて いくつは紹介してみよう.それら重要なツールの大半もまた free なソフトウェアなのである.


脚注

[1] じつはひとつのハードウェアの中でLinux はWindows や DOS と共存できる.「削除して……」などと書いているのは, 私がココロの狭いひねくれた性格の人間であると告白している だけのことなので,真に受けなくてもかまわない.

[2] 1998年4月にめでたく「北転」して以来,私もLinux マシン を毎日の生活の中で使用することになった.この文章改訂は Linux を搭載したノートパソコンで書いている. まぁーおそらく,今後はMacintosh やWindows を搭載したコンピュータをメインマシンとして使用する ことはないだろう.

[3] ただしWindows NT はPC で動作するマルチタスクなOSである. お金のあるひとはこちらでもいいかも……

[4] Macintosh で動作するMkLinux というのもある. しかし速度性能に関してはあまりよくないという噂がある (Mach カーネルを用いているから). それを解決したLinuxPPC というのもあるらしいが…… いずれにせよ私自身がこれらのOS を使ったことはないので 論評のしようがない. Linux とならぶfree なPC- Unix としてはFree-BSD も挙げられる. しかしこれも使ったことがないので今回は取り上げない.

[5] カードや周辺機器にアクセスし操作するためのプログラム. 上のほうで「案外と中古の品なんかのほうがいいかもしれません」と 述べているのは,Linux パッケージに含まれるdevice driver が 最新のカードなどに対応していない可能性があるため. 一例をあげると……九大・数理生物学講座の H さん (女性,どーでもいいけど) が最新の Gateway2000 マシンを購入してLinux を導入しようとしたところ, ネットワークカードを認識しないのでEthernet を使えないわ, ヴィデオカードにX server が対応していないのでX 環境 (Unix におけるグラフィカルなユーザインターフェース)が 利用できないわでたいへんだった. 幸いにも数理生物学講座の決戦兵器こと H さんはこの絶望的な状況を 英雄的な努力で自ら切り抜け 全ての問題を解決してしまったのだけど……

[6] 正確にはPosix 規格準拠とでもいうべきなんだろうか? ちゃんと調べていないのでよくわからない.

[7] 九大・数理生物学講座随一のUnix づかいのWeb ページ. このweb site の「情報の連環」からたどれる.




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