<裏商売> シリーズ
低温研Linux 導入記依頼……1998年4月某日
電話が鳴った.裏商売で使う番号のほうだ.
「死にかけのPC にLinux を導入して蘇生させる, と聞いたのですが……」 いつものヤマのようである. 「ああ.変な規格のやばいものだったり, もう手遅れになった機械は助けられないがね」 受話器の向うの依頼人の声は静かで丁寧だった. 「IBM の486マシンです」 「そういう三世代前に普及したやつならば. ところでそちらは……?」 「低温研の……」 低温研.キャンパス北辺の特殊研究施設. 極低温超大型冷凍庫が24時間休むことなく稼働している. 凍てついたその巨大な部屋で何が研究されているのか 誰も知らない. 莫大な電力を供給する原子炉がどこかに隠されている とも噂されていた. 背筋に冷たいものが走る.依頼人は続けた. 「日時は後ほど指定します」 「承知した.スウィス銀行の指定の口座に振込みが確認され次第……」 電話はすでに切れていた. 第一次攻撃……5月11日今回のターゲットは,
外づけのCD-ROM からSlackware3.4 (カーネルは2.0.30) を
インストールすることにする.
起動用のboot disk (floppy disk) にコピイするイメージには
scsi.c を選んだ.
boot disk とroot disk で起動.
ここまではいつもどおりである.
敗退「ハードディスクのセクター数が異常に多い……」
なぜだ.「最小Linux 」を起動しながら 内蔵ハードディスクのパーティションとフォーマットを 行っている最中のことである. 「一台あたり160MB しかないはずなのに……」 強引に作業を進めた. fdisk プログラムがエラーを際限無く吐き出し,暴走. 緊急停止.なぜだ. 二時間の悪戦苦闘. いやあ,簡単なはずなんですけどお, 今日は何だかどうも調子が悪くて. 依頼人への弁解を頭の中で推敲…… 突如,地獄の関門が開く音が背後からひびいた. 極低温冷凍室.棒のように凍った何ものか. 背後も振り返らずに全力でその場から逃走した. 第二次攻撃……5月13日「わからないことはネットに聞け」
1995年以降すべてのプロフェッショナルにとって これは金言である. IBMのようなメジャーな会社の製品に Linux を導入するときの問題点など調べれば わからないはずはない. そう! ……わからないはずはないのだ. かかる狂信をもって検索エンジンを全力回転. ほーら,すぐに見つかった. なになに,IBMのBIOSは独自仕様で…… そうか, あのひねくれもののBig Blue め. こんな下らないところで独自性をごり押しするから こっちが苦労するんだ. てろりすと企業め. さてさて……Linux をブートする前に, ハードディスクのシリンダー数・ヘッド数・セクター数を こちらから明示してやればよいのだな.書式は,
完了「ハードディスクを正しく認識しない……」
なぜだ.ふたつあるドライブのうちひとつは正しく認識しているのに. よし.いったんネットで集めた情報のことは忘れよう. 虚心坦懐に何度かリブートを繰り返した. 画面を下から上にブートメッセージが次々と流れる. この機械は何を訴えようとしているのか…… 目をしかと見開いて, もう一度リブート…… なーんだ簡単じゃねーか. 内蔵HDDが2台ある場合には,
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