生物と無生物で構成されている 生態系における炭素・窒素・リン・ケイ素・カルシウムなどの化合物の 動態と生物との相互作用 (エネルギーの移流を考慮することもある) を表現し解析するための数理モデル. 多くの生態系モデルでは 一定規模の空間内における生物・無生物それぞれを抽象化して コンパートメントとして表現する. これらコンパートメント間を物質が移動する速度を観測データから推定し 系全体の物質収支を解析する. 複数の元素間あるいは水循環との連動を重視した生態系モデルを process based model と呼ぶことがある. また有毒物質や重金属の移流を評価するために構築された 生態系モデルもある. 生態系モデルは一定範囲の時間・空間スケイルに特殊化した 定式化がなされることが多いので, 既存のモデルを再利用する場合には その想定している対象だけでなく時空スケイルに注意しなければならない.
生態系モデリングは対象となる系の特性から 水圏 (海洋・河川・湖沼など) および 陸域 (森林・草地・農地など) に本質的に大別されてしまう. 水圏では物質の拡散が速いために比較的モデリングは容易である. 近年の水圏生態系モデルの例として, 例えば海洋生態系モデルにおいては動植物プランクトン (サイズ別)・ 溶存あるいは粒子化した物質濃度・生物/非生物の垂直移動/水平拡散が考慮された シミュレイションが開発され, 大気海洋大循環モデル (general circulation model, GCM) との結合をめざした生物地化学モデル (biogeochemical model) として発展しつつある.
いっぽうで陸域生態系の特徴は その非均質な基質 (heterogeneous substrates) にある. すなわち地表・地下の物質は混ざって一様化する速度が遅く わずか数cm 離れた場所の生物化学的特性が たがいに著しく異なることもありうる. また水圏生態系のプランクトンと異なり, 陸上大型植物の環境応答性は実験的に調べるのが難しい. このような複雑さとデータの得にくさのために, 陸域生態系モデリングは水圏のそれに比較して単純化されたものになっている. そこで例えば森林生態系では 光合成測定や CO2 フラックス測定などの 野外調査によって観測しうるデータに対応させて 樹木各部 (葉・幹・根) のコンパートメントの炭素収支を定式化しつつ 動態モデルが構築されている.
[文献] Jφrgensen, S.E. et al. (1995) Handbook of environmental and ecological modeling. CRC Press.
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(なお勝手に列挙されてた「モデルアグリゲイション」なる検索語は, 生態系内の物質循環の解明を目的とする こんにちの生態系モデリングではまったく使用されていない概念なので 削除すべきである).