熱帯林永久調査区の起源
- Richard Condit (1995) の紹介 -

TREE 輪読会(佐賀大) で行った論文紹介の要点です. (1998.11.08 久保拓弥)
TREE vol.10 no.1 January 1995 pp. 18 -22.
「大規模長期継続熱帯林調査区での研究」	Richard Condit

・ことの始まりは...
 ことの始まりは、火事で消失したコスタリカの熱帯季節林に1975年に作られ
た13ha の調査区だった。Steve Hubbell は種子散布様式、密度依存性、熱帯
有用樹種の抽出の適切な評価のため、大スケールの子調査が必要であると主張
した。それまでの森林の調査区の大きさは1ha ぐらいだったが、低密度種の多
い熱帯林では大面積の継続調査区が必要とされる。こうして、熱帯林の広い面
積における稚樹と樹木の完全な地図を作成する森林動態の調査区の研究は始ま
った。
 コスタリカの研究に続いて、Hubell とRobin Foster はパナマのバロコロラ
ド島(BCI)に50ha 調査区を設定した。この50ha 調査区はこれまで3度にわ
たって(1981-1983、1985、1990年)毎木調査がなされ、1990年の調査では直
径1cm 以上の樹木303種、244000本が数えられた。研究の初期ではこのBCI の
森林を構成する種の頻度が確率論的にランダムに変動しているという見方をし
ている。Hubbell はこの仮説に関する多くの議論に巻き込まれたが、そのひと
つは1983年、イギリスのパブにおけるもので、Peter Ashton は東南アジアの
熱帯林ではHubbell のモデルが当てはまらず、同属の樹木が共存し高い多様性
が維持さていると主張した。このためにマレーシアのパソーにも50ha 調査区
が設定されることになり、これはBCI の調査方法をまったく踏襲したものだっ
た。
 第3の50ha 調査区は南インドのMudumalaii の季節落葉林で頻繁な火事が林
床を焼く。さらにもう一つの50ha 調査区はマレーシア、サラワク州のランビ
ル国立公園で、ここは最も多様性に富み、1100種、フタバガキ科だけで86種も
存在する。そしてこの他にも、....。
 これらの森林動態調査区のネットワークが解明せんとすることは、群集生態
学と森林樹種の多様性の維持という初期の目標に加えて、森林資源の経済学、
持続可能な選抜伐採、そして地球環境変化に対する森林群集の反応である。
 各地で得られたデータが比較可能であることが決定的に重要なので、データ
採集は標準化した方法で行われる。・センサス調査とデータベース管理 50ha
 調査区の一番最初の調査は12人のフィールド要員を2年と150万ドルを費やす
が、次からは同じ人数で半分の時間、100万ドルでできる。それぞれの調査区
は5m 四方の格子に分けられ、それぞれの種ごとに位置を記録される。データ
の品質管理(とくに種の同定)は大変な仕事である。BCI 調査区でさえ未知の
植物相であるのに、ランビル、エクアドル、ザイールなどは同定されていない
種が多く、種の同定の専門家が必要である。
 調査者が森林を歩き回ることによって稚樹相に影響を与えるが、ブタなどの
哺乳類にくらべればマシだろう。データセットの管理も大変である。調査区あ
たりのデータは25-30MBのなるので、386チップ200MBハードディスクのIBM ク
ローンやあるいはワークステーションで処理している。また、データの発表権
の問題もあり、各調査区で取り決めが作られている。

・結果
 これらの大規模調査区の結果は3つに分類できる:
1)多様性の維持機構 BCI 調査区ではJanzen-Connell 仮説の検証が行われ
ている。もっとも優占的ないくつかの種ではこの効果によって環境収容力のセ
ットが決まっているようだが、ほとんどの種ではそのような効果が見られなか
った。またBCI 調査区では更新ニッチの違いによる多様性の維持についても研
究されているが、更新ニッチを違えているわけではなさそうだ。
2)群集の変化 気候変化に対する群集の変化を知りたいのだが、幸運なこと
にBCI 調査区では1983年に異常に乾燥し、1982-1985にかけての死亡率は50%
も上昇し、いつくかの林冠樹種ではとくに死亡率が高かった。
3)それぞれの樹種の人口動態と経済的価値評価 各樹種の密度の研究から熱
帯の森林はたいへん多様性が高く、種の保護のためには広い面積が必要である
と推定されている。またこれらの研究は森林の経済的価値を推定するのにも役
立つ。

・50ha 調査区がやっていないこと
 50ha にわたる稚樹の動態を調べることは不可能である。50ha と言えど森林
のごく一部であり、小さいプロットを分散させたりリモートセンシングなどに
よる調査も必要である。また50ha の調査区は希少種の動態を把握できていな
い。

・まとめ
 CTFS(Center for Tropical Forest Science )を中心とする長期間の大面
積森林調査区のネットワークは研究だけでなく管理や保全に関する基礎的な
情報を広めるにも有用である。

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