------------------------------------------------------ 日本進化学会第5回大会(2003年8月1日〜4日)企画 http://neco.biology.kyushu-u.ac.jp/~qshinka/index.html ------------------------------------------------------ 【名称】形態測定学・夏の学校――見ればわかる!「かたち」の数理 【趣旨】生物の「かたち」は長年にわたって数値化と定量化をはばんできた。ひとつ には,「かたち」の幾何学的特徴を記述するための数学理論が従来の枠組では対応し きれなかったからである.さらに,「かたち」の変量をあつかう統計学は伝統的な線 形統計学だけでは足りないからである.もうひとつ,多くの生物学者が「かたち」の 数理を論じるだけの数学的素養を育んでこなかったからである.1980年代以降の形態 測定学(morphometrics)の方法論の長足の進歩は、生物の「かたち」がようやく数 学的・統計学的に扱える見通しを与えた。形態測定理論は多くの研究事例の蓄積によ り比較形態学・発生生物学・系統学・生態学に用いられるツールとしてその威力を示 しつつある。しかし、今も進展し続けるこの分野に入ることは多くの生物学者にとっ てハードルが高いようだ。今回の「形態測定学・夏の学校」では、できるだけヴィジ ュアルに――数式ではなく図表により――形態測定学の基本である幾何学と統計学の 枠組を与え、そこで用いられるさまざまな数学的方法(アフィン変形のテンソル解析 、非アフィン変形の薄板スプライン解析、フーリエ記述子による輪郭曲線解析、形態 成長の数理モデリングなど)とその応用についてハンズオン講義をする。ヴィジュア ル性を重視するためにコンピュータ・デモンストレーションを中心に講義を進める。 また、できれば受講生は各自ノートパソコン(Windows)を持参し、事前にダウンロ ードした形態測定ソフトウェア(フリー)を用いて講義中に実習することが望ましい 。もちろん、聞くだけでも得るものはあるだろうが、手を動かすことによりはじめて 体得できることはきっとある。必要な数学的知識はミニマムにするので心配すること はないが、高校までの初等幾何学,線形代数(ベクトルと行列)そして初等統計学の 知識(ないし関心)があれば言うことなし。 【講師】三中信宏(農業環境技術研究所)――校長 岩田洋佳(中央農業研究センター) 田辺 力(徳島県立博物館) 岡本 隆(愛媛大学理学部)※交渉中 【内容】 ●講義1(「形態測定学――その歴史と概論」):8月2日(土)8:50〜  講師:三中信宏(農業環境技術研究所) 生物形態学の歴史の中で,比較形態における形状比較の定量化の試みを振り返る.ま ずはじめに,かたちの構成要素としてのサイズとシェイプの定義とその幾何学的性質 を論じ,かたちの数理への導入とする.かたちのもつさまざまな情報ソース(座標・ 輪郭・色彩・テクスチュアなど)を概観した上で,座標データに基づく幾何学的形態 測定学(geometric morphometrics)の理論を解説する.とくに,D'Arcy Thompson 以来の形状数学の理論が,統計学としての生物測定学の知的系譜の中でどのような位 置づけを与えられるかがポイントとなる.かたちの定量化をめぐる過去の試行錯誤を 振り返ることにより、今日の形態測定学を生み出した動機がはじめて理解できる。形 態測定学に必要となる統計学的な「ものの考え方」についてもすこし触れたい。 ●講義2(「見てわかる幾何学的形態測定学」):8月2日(土)11:00〜  講師:田辺力(徳島県立博物館)+三中信宏(農業環境技術研究所) 幾何学的形態測定学では,標識点座標の組によって代表されるかたちの幾何学的変換 に対する不変量(シェイプ)の性質を論じる.アフィン変換はかたちの大域的な線形 変換(拡大・縮小・傾斜)をあらわす.そして,アフィン変換の結果は歪みテンソル として数値化される.しかし,形状に関わる局所的な変形は非アフィン変換によって はじめて視覚化される.この非線形変形は薄板スプライン関数を用いて,形態間の仮 想変形として近似される.この変形に伴う屈曲エネルギーは非アフィン変換によって 生じ,その仮想屈曲を固有値分解することにより,非アフィン変形は互いに直交する 変形成分(主歪み)に分割される.百聞は一見にしかず――この講義では,パソコン を用いたデモンストレーションといくつかの事例を通して、できるだけ視覚的かつ実 習的に話を進める予定である. ●講義3(「輪郭曲線のフーリエ解析」):8月2日(土)14:00〜  講師:岩田洋佳(中央農研センター) フーリエ解析は生物形態の輪郭形状の特徴を比較するのに適した方法である。輪郭曲 線上の標識点のサンプリングとフーリエ級数による近似、係数ベクトルの統計的解析 と多変量データの視覚化、QTLマッピングへの利用など、フーリエ解析の A to Z を知るための講義。演習用に、自作のフーリエ形状解析プログラム「SHAPE」を配布 する予定。 ●講義4(「モデルベースの理論形態学」/「総括」):8月2日(土)18:00〜  講師:岡本隆(愛媛大学理学部→交渉中)+三中信宏(農業環境技術研究所) 1960年代の古生物学で生まれた理論形態学(theoretical morphology)は、明示的な 数理モデルに基づく形態の成長パターンの記述と比較のための方法論として発展して きた。モデリングに付随する問題として、モデルの骨格をどのように設定するか、パ ラメータ推定とその誤差評価、モデルの適合度などが論議される。最後に、「夏の学 校」全体の締めくくりとして、ツールとしての形態測定学との付き合い方、今後の修 業のあり方について総括したい。 【参加条件】 ・事前申込制――開校前に参考情報を流したり質問を受け付けるメーリングリストを 開設しますので、参加希望者は「氏名/所属/メールアドレス」を三中信宏(minaka @affrc.go.jp)まで事前にお知らせください。もちろん、大会当日の飛び入り参加も 可能です。 ・持参するもの――参加希望者は Windows ノートパソコンを持参してください。事 前にインストールしていただきたいフリーソフトウェアは下記の通り: 1)形態測定プログラム。ニューヨーク州立大学のダウンロードサイト: →形態測定ソフト5つ[tpsTree, tpsRegr, tpsSplin, tpsRelw, tpsPLS] →ユーティリティソフト1つ[tpsUtil] →ユーティリティソフト1つ[tpsSuper] →チュートリアルソフト2つ[tpsTri, tpsPower] 2)統計解析プログラム。CRANのダウンロードサイト: →統計言語「R」プログラム(Windows版)をダウンロード。 (インストール方法に関してはを参照のこと) ※なお、学会会場では電源が確保できない可能性がありますので、予備のバッテリー をお忘れなく。 ※講義ではビデオプロジェクタを利用しますので、ノートパソコンがなくてもエンジ ョイできるでしょう。ご心配なく。 --- end of msg --- ----- ## 三中信宏 / MINAKA Nobuhiro ## ## minaka@affrc.go.jp ## ## - Vita brevis; ars longa - ##