名波哲 (京都大・農; 現・大阪市立大学)
固着性、定住性の生物の空間分布パターンは、種の分散力や種内および種間競争の 効果などを反映している。これまで樹木(例えばKenkel 1988; Peterson & Squiers 1995; Nanami et al. 1999)、 植物個体上の植食者(Andersen 1992)、アリ塚(Levings & Franks 1982)、鳥の巣(Bartlett 1974)などを対象に、空間分布パターンの記載と解釈が行われてきた。
本講演では空間分布パターンを記載するためのインデックスとして、Ripley (1977) の K(t) を改変した L(t) を紹介する。L(t)は距離法の一種である。計算するときはまず 1つの個体に注目し、次にその個体とその他全ての個体との組み合わせについて個体 間距離を測定し、そのうち任意の距離t以下の数をカウントする。この操作を調査区 内の全ての個体に注目して行い、個体間距離がt以下の組み合わせの総数を求めるこ とが計算の基本であり、L(t)の値は任意の距離tに対して求められる。分布様式がラ ンダム、あるいは2種の分布相関が独立の場合、L(t)の値は0となり、0から有意に 外れれば分布様式が集中あるいは一様、分布相関が同所的あるいは排他的と判断され る。また追跡調査の開始時と終了時でL(t)の値を比較すれば、空間分布パターンの経 時変化の方向を評価することも可能である。いくつかの個体の死亡により個体群の空 間分布が時間とともに集中分布あるいは一様分布のどちらにシフトしたかを、L(t)の 値の増減から議論できる。
空間分布パターン、あるいはその変化の有意性はモンテカルロシミュレーションの 独立反復試行により評価する。帰無仮説のもとでの検定統計量L(t)の分布をこちらで 作り検定に利用する方法である。目的に応じて次のような方法がある。
一種の分布様式の検定。帰無仮説は「ランダム分布」。観察された点の数(植物個体 の数など)と同数のランダム多点についてのL(t)を計算する。
二種の分布相関の検定。帰無仮説は「2種の分布は独立」。平面をトーラス に見立て、一方の種の位置は固定し、もう一方の種の位置を平行移動させた新しいサ ンプルについてL(t)を計算する。平行移動の方向と距離はランダムに決定する。
一種の分布様式と二種の分布相関の両方の検定に用いられる。観察され た場合と同数の点を、あらかじめ位置が固定された多点の中からランダムに選ぶ。例 えば植物につくアリマキの分布パターンの検定にはこの方法が使われている (Andersen 1992)。アリマキの分布は植物の上に限れられてるからである。また帰無仮説を 「random mortality」とし、死亡によるパターンの変化の検定もこの方法で行われる。追跡調 査開始時の生存個体の集団中から、調査期間中に観察された死亡個体と同数の個体を ランダムに選んで取り除き、残った個体についてL(t)を計算する。
雌雄異株植物が優占する森林における樹木個体の空間分布解析を事例とし、解析の 実際や結果の解釈について論じる。